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顧客への簡単な返信なのに、部下が毎回、上司の承認を待っている。「もっと自分で考えて動いてほしい」と思う。でも、先月までは、その上司が返信文を一つ残らず書き直していた。
本人が責任を避けているのでしょうか。それとも、職場で覚えたやり方に従っているのでしょうか。X理論・Y理論は、こうした場面で上司自身の考え方を振り返る手がかりになります。
ダグラス・マグレガーは、1960年の著書『企業の人間的側面』でX理論・Y理論を展開しました。邦訳は産業能率大学出版部の『企業の人間的側面』として刊行されています。
二つの理論が表すのは、マネジメントの土台になる人間観です。社員を二種類に分ける性格診断ではありません。
| 着目する点 | X理論の前提 | Y理論の前提 |
|---|---|---|
| 仕事への向き合い方 | 人は仕事を避けがちなので、外から働きかける必要がある | 条件が整えば、仕事は自然で、やりがいを感じられる活動になる |
| 行動の方向づけ | 必要な努力を引き出すには、外部からの統制が必要になる | 納得して取り組む目標に向けて、自ら行動を調整できる |
| 責任の引き受け方 | 責任を避け、指示されることを好む | 条件によっては、責任を引き受け、求めるようにもなる |
これは対照的な前提を並べたもので、あらゆる社員について実証された事実の一覧ではありません。考えたいのは、「自分は何を前提にしているのか。その見方を裏づける具体的な事情はあるか」という問いです。
Y理論は、仕事を任せて放っておくことではありません。マグレガーは原著者の論考(英語)で、環境を整え、障害を取り除き、支援する役割を管理者に求めています。指導をやめたり、基準を下げたりすることも否定しています。
「やる気がない」と結論づける前に、期待する成果、必要な情報、本人が決められる範囲を確かめる。そこから使い始められる考え方です。承認をすべてなくせばよい、という話ではありません。
ここまでが短い要点です。以下では、一つの仕事でどう試すかを見ていきます。
たとえば、カスタマーサポートの担当者が、発送状況を伝える返信案を作っているとします。経験はあるものの、送信には毎回、上司の承認が必要です。上司が忙しいと返信が止まり、担当者も「どうせ直されるから」と文面の提案を控えるようになっています。
主体性が足りない、と見ることはできます。一方で、主体性を発揮できる余地が、承認の仕組みにほとんどないのかもしれません。本人との対話や仕事の確認をせずに、どちらかと決めつけることはできません。
「これからは信頼して任せるよ」と宣言する前に、こう聞いてみます。
「発送状況の案内で、私の承認を待たずに送れそうなのはどんな返信ですか。逆に、一緒に確認したいのはどんな場合ですか」
相談の結果、確認済みの発送情報を伝える定型的な返信を、1週間だけ本人の判断で送ってみることになったとします。新しい納期の約束、補償の申し出、社内ルールを超えた情報開示は対象にしません。迷うケースは上司に相談します。既存の規程は守り、この変更を決める権限が上司にあることも先に確認します。
次の図は、任せ方を具体化するための応用例です。マグレガーの著書の事例や、効果が実証された手順ではなく、本記事で作成したものです。
仕事を任せる前に、何を変えるかを一緒に決めるためのオリジナル図。
よい返信に必要なことを確認する。 正確な発送状況を伝え、チームが実際に対応できる次の手順を案内する。「お客様に満足してもらう」だけでは、迷ったときの判断基準になりません。よい返信に必要なことを、担当者からも聞いてみます。
本人が判断できる範囲を決める。 自分で送れる案内と、承認が必要な約束を分けて書きます。決める権限がないまま、結果の責任だけを引き受けてもらうことはできません。定型的な返信まで毎回承認するのであれば、その部分はまだ任せていないことになります。
困ったときに相談できるようにする。 必要な情報を担当者がすぐに見つけられるようにし、上司が不在のときの相談先も決めます。最初の数件は一緒に確認したい、という希望があれば、その時間を取ります。支援を求めたからといって、任せる試みが失敗したわけではありません。
1週間後に返信の内容と負担を見直す。 1週間後、あらかじめ決めた件数の返信を見直します。内容は正確だったか。案内がわかりにくく、顧客から再び質問が来ていないか。承認待ちは減っても、情報を探す時間が増えていないか。本人が無理なく対応できたかも聞きます。承認件数が減っただけでは、サービスの質やモチベーションが上がったとはいえません。
役立った点を残し、困った点を直します。誤りがあった場合も、判断範囲、情報、練習、実際の対応のどこを見直すべきかを調べます。「やはり任せられなかった」だけでは、次に何を直せばよいかわかりません。
「この人はXタイプか、Yタイプか」と分類するより、最近の仕事を一つ取り上げるほうが、話を具体的にできます。
話してみると、練習が必要だとわかるかもしれません。すでに仕事量が多すぎる、という答えもありえます。どちらも、責任を増やすだけでは解決しません。上司自身が、主体的に動いてほしいと言いながら、問題のない細かな違いまで直していたことに気づく場合もあるでしょう。
X理論・Y理論は、管理者の前提を見直す枠組みです。能力を判定するテストでも、任せれば成果が出ると保証する法則でもありません。ある仕事に必要な技能、必須の手順、無理のない業務量は、別に確かめる必要があります。
詳しい指示を求めることも、怠けている証拠にはなりません。初めての仕事かもしれませんし、期待が曖昧だったり、誤りの影響が大きかったりするのかもしれません。必要な確認は残し、その理由を共有します。チェックリストがあるというだけで、特定の人間観に結びつける必要はありません。
MITによるマグレガーの紹介(英語)には、Y理論まで固定的な教義として扱われることを本人が懸念していた、というエドガー・シャインの指摘もあります。「人は厳しく管理しないと働かない」を「任せれば誰でも力を発揮する」に置き換えるだけでは、自分の前提を問い直したことにはなりません。
自分の承認待ちで止まる仕事を、一つ選んでみてください。その待ち時間がなぜ必要なのかを、実際に仕事をする人と確かめます。品質を守る大切な確認かもしれません。練習が必要なのかもしれませんし、現場で決められることが見つかるかもしれません。
任せ方や働き方の好みについては、「部下の自律を受け入れることは、コントロールを諦めることではない」も参考になります。そこで扱う自律性は、X理論・Y理論を測定する指標ではありません。
一人ひとりが仕事に求めるものを話し合いたい場合、Attunedのモチベーションアセスメントでは、11のモチベーターのプロフィールを対話に使えます。社員をX・Yに分類したり、能力や承認の要否を判定したりするためのものではありません。
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