【「個の時代」のHR経営 第4回】 早期離職を防ぐ「内発的動機づけ」の活用法

皆さま、こんにちは。このシリーズでは、定期的に戦略人事に求められる視点をお届けいたします。担当は、Attuned日本事業部長の飯田蔵土です。現職に至るまで、過去にアクセンチュアなどのコンサルティングファームでの経験を積みながら、金融工学や人的資本経営の分野で幅広い知識を培ってまいりました。

経済産業省によると、新卒者が入社してから3年以内に退職する「早期離職」は、企業の規模が大きくなるほど減少する傾向があります。しかし、1,000人以上の従業員を抱える企業でも、大卒者の早期退職率は約25%と、依然として高い水準にあります。この「早期離職」を防ぐことは、組織の持続性を確保し、採用および育成にかかるコストを抑える観点から、全ての管理職が積極的に考えるべき課題といえるでしょう。そこで、今回は早期離職を防ぐために「内発的動機づけ」を活用する方法について紹介します。

内発的動機づけのパターン

前回からの繰り返しになりますが、内発的動機づけは端的に言うと「やりがいのきっかけ、スイッチ」です。また内発的動機づけは各個人によって異なるため、「これはどの人にも当てはまる内発的動機づけだ」と言えるものは存在しません。

内発的動機づけの活用には大きく2つの方法があります。

  1. 本人の内発的動機づけに合わせて周囲の環境を変更する方法。

  2. 周囲の環境に本人の内発的動機づけを結びつける方法。

まず、前者はボトムアップ的なアプローチです。本人のやりがいに合わせて業務やコミュニケーションの方法を変えることです。たとえば、「創造性」がやりがいの最上位にある社員には新規事業を担当させるなどです。ただし、全社員のそれぞれのやりがいに対し、社内環境を完璧に合わせることは難しいため、適用が可能なタイミングや程度は限られています。

次に、後者はトップダウン的なアプローチです。具体的な業務や命令に対して、本人の内発的動機づけを結びつける方法です。たとえば、「資格を取る」という業務に対して、内発的動機づけが「成長」である社員には、「この資格を取得することでスキルが向上し、組織に貢献できるようになる」と説明することで、モチベーションを高めることが可能です。
また同じ業務に対して、内発的動機づけが「利他性」である社員には、「この資格を取得することで、顧客により多くの価値を提供でき、組織全体に貢献できます」と説明できるでしょう。

では、これらの内発的動機づけを活用したアプローチが早期離職の防止にどのように役立つのでしょうか。それについて、以下で詳しく見ていきます。



内発的動機づけと離職防止との関係性

リクナビNEXT社が公表した「転職理由と退職理由の本音ランキングBest10」は、要するに「退職に繋がる不満」のランキングです。これは早期離職に限定されていませんが、非常に参考になります。このランキングを見ると、Best10の「不満」の大部分が、前述のアプローチで解消や改善が可能であることがわかります。上位5つの「不満」について詳しく見てみましょう。

1位 上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった(23%)
解決策:上司や周囲のコミュニケーションスタイルや、仕事の進め方を変えることで解消(ボトムアップ)

2位 労働時間・環境が不満だった(14%)
解決策:与えられている環境と内発的動機を結び付けることで解消(トップダウン)

3位 同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった(13%)
解決策:仕事の進め方に関する感覚、当たり前にギャップがある。お互いの内発的動機を理解し、行動を変える(ボトムアップ)

4位 給与が低かった(12%)
解決策:制度上の問題。ただし経済的な成功を内発的動機とする人材に対して、賞与額の説明を公平性高く行うなど内発的動機を起点にした改善の余地はある(ボトムアップ)

5位 仕事内容が面白くなかった(9%)
解決策:与えられている環境と内発的動機を結び付けることで解消(トップダウン)

いかがでしょうか。これらの「不満」を解消するには、上司が部下の内発的動機づけを理解し、具体的な行動を取ることが有効です。

しかしながら、実は上司が意識すべき重要な点がもう一つあります。それは「なぜ社員たちは上記のような不満が生じた場合、転職という選択肢を選ぶのか」という背景です。



なぜ「不満」が「転職」につながるのか

現在、人材の流動化が進み、転職は前例のないほど容易になっています。働く人々にとって、多様な選択肢があることはポジティブな側面もあります。しかし、もし「他の職場に行けば、(今よりもっと)やりがいのある仕事ができるだろう」という安直な発想になってしまうと、それは本人にとってだけでなく、現在の雇用先や転職先の企業にとっても望ましくない状況を引き起こしかねません。

なぜなら、やりがいは自らの心が感じるものだからです。外から与えられるものではありません。

小説『ファウスト』でも、主人公が何でも与えてくれる悪魔メフィスト・フェレスとの長い旅路の末に気づくのは、「どれだけ場所を変え、どれだけ与えられても、心が満足しなければ幸福な瞬間は永遠に訪れない」ということでした。

仕事に満足していないとき、人は自身の職場や企業、業界が自分にその満足を提供してくれないと考えがちです。しかし、そこで「満足できる心」がなければ、どんな環境であっても満足することは難しいのです。

ですから、「やりがいの充実」と「早期離職」の防止には、社員は自分自身の内発的動機づけを自覚し、上司は部下の内発的動機づけを理解すること、そして積極的に「内発的動機づけ」と「役割や業務」を結びつけていくことが、大変重要となってくるのです。

ただし、これに取り組む前に、さらにもう一つ大きな課題が存在します。



心理的安全性が早期離職防止のカギ

部下から会社を辞める意志があることを聞き、「もっと早く相談してくれていれば良かったのに」と感じることがあるでしょう。これは部下にとって、あなたとコミュニケーションをとることに心理的な安全性を感じていなかった可能性があります。

つまり部下があなたに対して、率直に現在の仕事に不満を感じたり、やりがいを見いだせないことを話すことができるような関係性が築かれていなかったのです。そうした相談ができる環境が整っていれば、内発的動機づけについて話し合い、仕事に対する前向きなアプローチを共に模索することが可能になります。実際、心理的安全性の確保は、早期離職を防ぐ鍵となる重要な要素なのです。

部下との信頼関係を構築し、彼らが自分の感情や悩みをオープンに共有できる雰囲気を作り出すことが、組織にとっても個々のメンバーにとっても利益になります。これはコミュニケーションとサポートのあり方を見直し、心理的安全性を高めることで達成できるでしょう。




まとめ

したがって、早期離職の防止に取り組む上で重要なポイントは、以下の通りです。

1. 心理的安全性を確保する: チームや組織全体において、メンバーがオープンに感情や意見を共有できる安全な環境を整備することが重要です。

2. 社員のやりがいを把握する: 社員が仕事にどれだけやりがいを感じているかを理解するために、コミュニケーションやフィードバックの手段を活用します。

3. やりがいの不足に対処: やりがいを感じていない社員に対しては、上司が積極的に対話し、具体的な働きかけを行うことが求められます。

4. 社外のやりがいに対処するアドバイスを提供: 社員が自身のやりがいを見いだせない場合、どのように対処すれば良いかを指導することが必要です。

そうは言っても早期離職の防止にはこれに加えてさまざまな取り組みが必要ですが、ここで提案した内発的動機づけや心理的安全性を利用したアプローチは、低コストで汎用性が高い施策となり得ます。


Attunedとは?

Attunedは、心理学に基づいた個人モチベーションの可視化ツールと人材活性化サービスです。やりがい創出、生産性向上、離職防止、心理的安全性の向上、人材育成・マネージャー育成などに効果的なソリューションを提案しています。

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飯田蔵土

EQIQ株式会社Attuned事業部営業責任者

外資系メーカー事業部長、コンサルティングファーム、M&Aアドバイザリーなどを経て現職。一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了(MBA in Finance)

行動経済学会会員