不確実性や困難に直面する従業員を導くために影響の輪を活用する方法

不確実性や途方に暮れるような困難に対処するための私がよく使うコーチングツールは、「影響の輪」です。このツールは非常に汎用性が高く、マネージャー、メンター、そしてセルフコーチングにも最適で、特別な教材やトレーニングも必要ありません。

このような話題は頻繁に出てくるので、ホワイトボードやナプキンの裏に書いてすぐに始められるくらい簡単なエクササイズがあるのは嬉しいですね。このエクササイズがあなたの役に立つことを願います。本記事では、この影響の輪の活用に必要なすべてと使用する際の例も含めてご紹介しています。見返せるようにブックマークしておきましょう!

影響の輪とは?

 

​​スティーブン・コヴィー著『7つの習慣』より「影響の輪」

 

スティーブン・コヴィーは、著書『7つの習慣』の中で、最初の習慣である「積極的に行動すること」の一環として、「関心の輪/影響の輪」と呼ぶフレームワークを紹介しています。コヴィーは、私たちは自分の時間とエネルギーをどこに集中させるかを意図的に選択できるが、その選択をするためには、自分が影響を与えられる場所がどこかを把握し、理解する必要があると述べています。状況を把握するための彼のアプローチは、すべての懸念事項を「自分でコントロールできるもの」「影響を与えられるもの」「それ以外のもの」の3つに分けて考えることです。

あなたが完全にコントロールできることは、「コントロールの輪」に入ります。これは、誰からも関与や意見を受けることなく、自分自身で解決できる問題に当たります。どのように対処するかは完全にあなた次第です。あなたの言葉、あなたの口調、あなたの行動、これらはあなたのコントロールの輪の中にあるのです。

「コントロールの輪」よりは少し離れているものの、まだ手の届く範囲にあるのが「影響の輪」です。この領域は、あなたの影響が直接的または間接的ではあるものの、あなたが何かをすることができるものです。例えば、人間関係、会議の雰囲気、チームの文化などがこのカテゴリーに入ります。一般的に、あなたは一役買っていますが、あなただけが一役買っているわけではありません。


あなたの影響の輪の外には、他のすべてが入ります。この領域では、あなた個人の行動が事態に大きな影響を与えないような、懸念事項や関心のある事柄を扱います。経済や天候、会社の方針なども、自分の輪の外にある「その他」のカテゴリーに入るかもしれません。

厄介な不確実性から逃れるには、「コントロールと影響の輪」の中で、積極的に行動することにエネルギーを向けることが大事です。他のすべてを気にしなくなると、重荷が取り除かれたように感じられ、次のステップをより管理しやすくなります。他の輪に当てはまらない懸念も、他のトピックと同様に実際に起こっているものですが、このような影響もコントロールもできないことに貴重な時間とエネルギーを費やしても、得られるものはほとんどないのです。

 
 

なぜ影響の輪が必要なのか?

ここ数年、VUCAな世界でいかに生き、リードしていくかということが盛んに語られてきました。VUCAは2010年代半ばにビジネス用語として使われ始めましたが、2020年初頭にその関心はピークに達し、それ以降も大きな注目を集めています。その時期は、パンデミック、さまざまな社会的・政治的な動き、不況、解雇、その他挙げたらきりがないほどの危機を経てきた時期ですから、これは当然のことなのかもしれません。

私が目にしたアドバイスの多くは、戦略や意思決定に関するものであり、従業員との距離を縮めるよう促すものもありました。これらはすべて、大局的なものとしては素晴らしい提案です。しかし、1on1で目の前にいる人が、不安を感じたり途方に暮れて、仕事の優先順位を決めるのに苦労している場合、もっとズームアップして一口サイズの解決策を考え出す方法が必要です。自分がこのような状況に置かれたとき、直観的には何をすれば良いと思いますか?

私たちの多くと同じように、あなたは、従業員を手取り足取り手伝って、彼らの優先順位を明確にしたり、安心感を与えたりすることを望むかもしれません。しかし、チームのメンバーが自分自身で気づきを得ることは、大きな力になります。そして、これには多くの利点があります。


まず、アドバイスを与えるのではなく、コーチングツールを活用することで、相手が臨機応変に対応できること、究極的にはその人の能力を信頼していることを伝えることができます。あなたは、その人が自力で解決するのを放置しているわけではありません。あなたは、その人の横にいて、エクササイズを通して話をし、前進するために必要なリソースにアクセスする手助けをしながら、主導権をその人の手に委ねることができるほどその人を信頼しているのです。相手にとってなんと力になることでしょうか!

第二に、自己効力感を高めることができます。この利点は現在の状況への対処だけにとどまりません。というのも、必ずまた不確実性に直面したり、難しい決断を迫られたりすることになるからです。解決策を与えるのではなく、そのプロセスをガイドすることで、彼らは実体験を積み重ね、自信を深め、あなたがそばにいないときでも再び頼ることのできるリソースを手に入れることができます。

第三に、より多くの人が、自分の心配事を整理し、そしてその中から自分でコントロールできる一握りのものを見極める方法を学ぶ可能性が高まります。もし、この方法が成功すれば、同僚に教えたり、会議に取り入れたりする可能性が高くなります。これは誰もが持っておくべきツールなので、できるだけ多くの人に伝えることを目指しましょう。

 
 

コーチングツールとして「影響の輪」を使う方法

渦巻くアイデア(または懸念事項)を整理し、「途方に暮れた状態」から「計画がある状態」に移行する必要性に気づくことから始めましょう。自分以外の人にこのような必要性があることに気づいたら、その人を観察して気づいたことを振り返り、その人をジャッジすることなく、これを解決するための思考エクササイズを試してみることに同意してもらえるかどうか尋ねてみてください。

ここから先には、いくつかの方法があります。数分かけて、自分が心配していることをすべて書き出す「ブレインダンプ」は、良い出発点になるかもしれません。書き出したら、それらをカテゴリーに分類します。これらの心配事のうち、自分が完全にコントロールできるもの、ある程度影響力のあるもの、カテゴリー外のものはどれでしょうか?この方法は、オンラインや共有ドキュメントで作業するとうまくいきます。なぜなら、作業中に懸念事項を再編集するのが簡単だからです。紙やホワイトボードを使う場合は、自分がコントロールできない懸念事項を消し、完全にコントロールできる懸念事項を丸で囲むなどして、どのカテゴリーに当てはまるか示すことができます。このとき、「コントロール」「影響」「関心」のサークルを説明し、作成したカテゴリーがサークルモデルとどのように対応しているかを振り返ることができます。

また、「コントロールの輪」の概念について簡単に説明し、先ほどの図のような同心円を描くことから始めた方がよい場合もあります。懸念事項のリストを組み直すには、すべてを消したり書き直す必要があるので、紙やホワイトボードを使う場合は、テンプレートを使ったアプローチの方が適しているかもしれません。この方法では、ブレインストーミングをしながら、悩みをカテゴリーに分類していきます。ただしテンプレートを前にしてエクササイズを始めると、トピックが少なくなったり、トピックを主観的に解釈したり、スペースに合わせてリストを制限したりする人が時々います。自分で描いたモデルを見直し、他に含めるべきものがないか確認し、懸念事項を別の輪の中に移したり、より小さな事象に分解したりする必要があるかどうかを必ず検討してください。

どのような方法でこのエクササイズを始めたとしても、懸念事項をそれぞれの輪に分類したら、次に進む前にやるべきことがまだいくつかあります。次のステップは、いくつかの内省的な質問をすることです。

・このエクササイズをする前、あなたはどう感じていましたか?今はどのように感じていますか?何が変わりましたか?

・どの輪に一番注目していますか?

・自分のサークルを見て、何か気づいたことはありますか?例えば、他のサークルより項目が多いサークルはありますか?

・このエクササイズから得たものは何ですか?

 
 

それではいよいよ、行動に移しましょう。まず、「コントロールの輪」の中身に注目します。マネージャーとして、これらの項目を現在進行中のプロジェクトや責任と結びつけるよう、チームメンバーを指導するのもよいでしょう。そして次のような質問をします:「この輪の中にあるものに対して、どのように主導権を持ちたいですか?」、「この項目に対して、最初に実行できる一口サイズのステップは何ですか?」、「いつそれを実行しますか?」などです。

そして、 個別の行動ではなく、大掛かりでステップの多い方策を考えていないか確認し、もし目標が大きすぎたり、インパクトがないほど小さいのであれば修正を行うよう指導しましょう。

「コントロールの輪」の中に多くの項目がある場合、優先順位をつけて、最初に1つか2つだけ集中的に取り組む項目を選ぶ必要があるかもしれません。また、そのカテゴリーの各項目について、具体的なアクションを決めると良い場合もあります。その場合、フォローアップの時間を設けて、これらのアクションがうまく進んでいるかを確認するのも効果的です。これは、サポートを提供するためでもあり、また、無理が再び生じないようにするためでもあります。


次に、「影響の輪」を見て、その項目に対して自分が何をしたいかを考えてみましょう。多くの場合、モチベーションは行動を起こすことで得られるものです。「影響の輪」に当てはまることを解決するには、自分の力ではどうにもならないことが多いのですが、何らかの変化を起こすことで、安心感を得ることができます。また、「影響の輪」にあるトピックは、マネージャーとして支援を提供したり、自分自身で対策を講じたりすることができる分野かもしれません。すぐに変化を起こせない場合でも、状況に応じて透明性を保ちながら懸念事項を話し合うことで、ポジティブな影響を与えることができます(このようなコミュニケーションを従業員ごとに実施する際には、個々人のトップモチベーターを知ることが大きな助けとなります!)。

この影響の輪はいつ使えばいいのか?

この複数の輪からなるモデルは、あなたや部下が物事を決めきれずにいたり、インパクトのある優先順位を設定できずに悩んでいたり、圧倒され無力感に打ちひしがれていたりするときに役に立ちます。

例えば、全社的な組織改編、同僚の退社、新しいプロジェクトの任用など、転換期を迎えるときが挙げられます。このような変化は、仕事に関連したものだけではありません。人生のあらゆる側面における懸念事項をエクササイズに取り入れることで、最良の結果をもたらすこともあるのです。

また、自分の成果に不満があったり、頑張っているにもかかわらず期待した成果が得られないと感じたりするような、パフォーマンスに関連した葛藤も、積極的に行動すべき場所を明確にできる「影響の輪」モデルの良い利用例となります。同様に、長時間労働の中で、より効果的に活動の優先順位をつける方法を探している人は、この視点からToDoリストの事柄を見直すことで、洞察を得られるかもしれません。

さらに、スキルアップや昇進を目指すために、どのようなステップを踏めばよいかを考えるときなど、プロフェッショナルとしての成長について考えるときにも役立つかもしれません。求職活動も、この方法が、大きなプロセスをより小さく、より優先順位の高い部分に分割するのに役立つ分野です。

リーダーとして、チームメンバーと共にこのエクササイズを行うことで、彼らがどのように状況を捉え、どのように自分の責任を全うしようとしているのかについて、新しい洞察を得ることができるかもしれません。また、チームと個人の間の目標の整合性を確保し、モチベーションを向上させ、チームの学習と発展をサポートするための新しいアイデアを探すときにも役立ちます。

全体として、「影響の輪」はコーチングのマルチツールのようなもので、さまざまな場面で活用でき、使い方を習得することも簡単です。このプロセスは簡単に反復でき、どのような状況にも適用できます。また、自分ではコントロールできないことにこだわることなく、一方で広い範囲の懸念を把握できる、という素晴らしいバランスを保っています。行動可能な優先事項にエネルギーを集中させることで、途方に暮れることによる無為無策から、意味のある一歩を踏み出すという行動に移れるのです。

 
 


Kristine Ayuzawa

Director, People Operations | Wahl+Case

Intrinsic Motivator Report